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約束の行方 (12) [小説: 約束の行方]

しばし呆気に取られた。
さっきまで電車に乗っていたはずで、まだ多摩川を渡るところだった。
横浜市内の最寄り駅までたどり着いていなかったというのに?
だけど、確かに私はここにいる。
間違いなく、ここはマンションの5階で、今は父が一人で住んでいるはずの実家の部屋の前だ。
考え事をしているうちに、いつの間にか私は、電車を降りて、ちゃんと改札を抜けて、駅からの道を歩いて、エレベーターで昇って、ここまで来てしまったんだろう。
そう思うしかない。
断片的に記憶を失くすくらいにきっと疲れきっているのだろう。
気を取り直して、私はバッグに手を突っ込んで、鍵を取り出した。
父は用心深い人で、いつも、在宅でもきちんと戸締りをしている。
鍵を開けてドアをあけると、ほんのりとご飯の炊けるいい匂いがした。
薄暗い家の中で、キッチンの灯りだけが灯っている。


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