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約束の行方 (10) [小説: 約束の行方]

「これ以上時間を無駄にできない」
隣の女性の声に再び我に返った。
彼女はひどく切羽詰った様子で迫った。
「あなたの名前を教えて」
「えっ? なんで?」
「冗談だと思ってくれていいから、名前を言って。もしその人に会いたいと望むなら」
別に彼女の言うことを理解したわけでも、信じたわけでも、ない。
もしかしたらちょっとおかしい人なのか、新手の詐欺かもしれない、と思いながら、別に名前を言うくらいどうということもない、と考えただけだ。
「山下希実」
私は小さく自分の名前を告げた。
もし、会いたい、という気持ちが少しもなかったなら、言わなかったと思う。
「山下、希実さん」
彼女が私の名前を繰り返した時、ひんやりと冷たいものが手の甲に触れた。
驚いて見ると、座席に投げ出したままの手の上に、彼女の手が乗っていた。
次の瞬間、地球の中心に引きずり込まれると思うほど、座席も線路も川もあらゆる物質を越えて真っ暗な闇にすとーんと体が落ちていくのを感じて思わず固く目を閉じた。


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tmk

つらい思い出と、これからの物語の展開がどうからんでいくのか、
どきどきします。
続きを楽しみにしていますね。
不思議な女性は一体何者が気になります。
ではまたアップされたら読みにきますね!
by tmk (2005-12-18 19:50) 

小島澪

tmkさんは本当に精力的に執筆されてますね。
よい刺激にさせていただいています。
どうしても一人作業なので(しかも職業ではないので)、そういう刺激がないとサボるのです。
この話は手書きで構想中の物語のサイドストーリーになっているのですが、これまで書いてきたものと少し毛色の違うものなので自分でもドキドキしています。
by 小島澪 (2005-12-25 03:46) 

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