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約束の行方 (6) [小説: 約束の行方]

電車で突然知らない人に話しかけられたら、誰だって警戒すると思う。
逆に話しかける方だって多少なりとも勇気が必要だ。
だけどとても奇妙なことに、彼女はまるで子どもの頃から知っている友だちのように、親しげに私に問いかけた。
「あなたは、記憶力のいい方?」
最初は、私に言ったのではないと思った。
だけど、彼女は間違いなく私の顔を覗き込んでいるし、私の右隣(つまり、彼女の隣の隣)には、誰もいなかった。
「記憶力?」
「そう、記憶力。物覚え」
彼女は頷いて、言葉を言い換えた。
年は私と同じくらいだろうか。
月のない夜の闇のような黒い瞳と長い睫に思わず見入ってしまう。
それと肌が透き通るように白い。
生粋の日本人じゃなくロシアとかフランスの血が混ざっている、と言われたら、それもあるだろうな、と納得できる感じ。
「この前の人は物覚え悪くて苦労してさ」
彼女はそう言って、同意を求めるように肩をすくめた。
「思い出させるのにホント、苦労した」
この前の人、って何だろう。
そもそも、一体この人、何なんだろう。
見ず知らずの私に、記憶力の話なんて。


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