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約束の行方 (3) [小説: 約束の行方]

30を過ぎたことを嘆き、若さを取り戻したがる人もいる。
だけど私は、20代にもう一度戻りたいとは思えない。
もう二度と同じ苦しみを味わうのは嫌だ。
私にとって若さは魅力ではない。ただの痛みだ。
20歳前夜、つまり1995年の3月19日は、日曜日だった。
その夜、朝出かけたきり一度も連絡を入れずに11時を過ぎて家に帰った私は、両親にひどく叱られた。
一人娘の私には8時という門限があって、それを過ぎるなら一度電話をすること、というのが親との約束だった。
女友だちと映画を観に行く、と言った私の嘘を、母は鋭く見抜いていたようだった。
だから余計に追及は厳しく、誰とどこに行って何をしていたのか、何度も問い詰められた。
ボーイフレンドと大洗までドライブに行った、などとは口が裂けても言えなかったし、言いたくなかった。
「連絡しなかったのは悪かったと思ってるし、謝ってるでしょ。いい加減に黙って!」
と最後に私が逆ギレして部屋に立てこもる形で、この日のお説教を無理やり終わらせた。
デートの後の楽しい余韻を蹴散らされて、本当に最悪の気分だった。
単純に門限を守らなかったことを叱った父よりも、付き合っている男の子がいることに勘付いているらしい母の方に腹が立った。
その怒りがまったく理不尽だということは今になってみればわかるのだけれど。


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はなぽん

お久しぶりです。約束の行方、読ませていただきました。
一話の長さが短めで、読みやすくて心地よいです。
私にもあったなぁ。二〇歳の頃。遠い遠い昔の話ですが。
親は子を思うあまり、ついつい激しく叱ってしまい、
子は親の気持ちが手に取るように分かるだけに反発してしまう。
そういうの、ありますよね。
続きを楽しみにしています。
by はなぽん (2005-12-05 14:30) 

小島澪

秋桜さん、いつもありがとうございます。
他人じゃないだけに感情がぶつかってろくでもないこと言ってしまうんですねえ。
いまだに時々「言い過ぎた……」と反省することがあるしょうもない娘です。
by 小島澪 (2005-12-11 19:24) 

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